中根公夫 愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔

早川書房「悲劇喜劇」連載中「プロデューサーの大遺言」

2023-01-01から1年間の記事一覧

三木のり平 困った人

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(26)ー(悲劇喜劇2022年1月) 本当に困った人だった。こっちが演出部だったりプロデューサーだったりした時は、全く付合いきれない人だった。 しかし舞台の上や映画の画面では、可笑しいこと…

ジョン・マーク 天皇陛下とジョン・マーク

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(25)ー(悲劇喜劇2021年11月) “ジョン・マーク”は、1968年東宝が帝劇で上演した、ロンドン発のミュージカル「オリバー!」の主役オリバー少年を演じた当時7歳の少年であった。イギリスの法律…

清水邦夫 ロンドンの晴舞台

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(24)ー(悲劇喜劇2021年9月) 清水邦夫は私になつかない人だった。 抑々のお付き合いは、1982年に日生劇場で上演した、「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」という、例によって長い…

大野一雄 神格化された天才芸術家の見えない素顔

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(23)ー(悲劇喜劇2021年7月) 舞踏家大野一雄が希代の芸術家であることは、その実績からも世界各国での評価を見ても、論を俟たないことであろう。本稿を書くに当っても、演劇人ではないではな…

ヴィクトール・ガルシア 私を演出した天才演出家

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(22)ー(悲劇喜劇2021年5月) ヴィクトール・ガルシアと始めて会って話したのは、パリ国際演劇大学(Universite du Theatre des Nations)のサラ・ベルナール座の稽古場の教室でだった。 「あん…

浅香光代 敵も猿もの引っ掻くもの

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(21)ー(悲劇喜劇2021年3月) 浅香光代さんが亡くなった。浅香さんは竹を割ったような気性の人だと聞いていた。その通りだった。 付合いは「にぎにぎ」という劇から始まった。喜劇畑の若手プ…

植木等 スーダラ節と三島由紀夫

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(20)ー(悲劇喜劇2021年1月) 植木等さんの亡くなった時、2007年だったと思うが、青山斎場での葬儀に私も参列した。クレージー・キャッツでその時残っていた谷啓、犬塚弘、桜井センリの老いた…

水谷八重子こと水谷良重

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(19)ー(悲劇喜劇2020年11月) 5、6年前六本木の角の雑踏の中で私を見付けたのは良重の方だった。私は車庫に入れた車を出してきて乗せて貰う所だった。人ゴミの中でも良重は相変らず華やかさ…

金子信雄 ガキ大将

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(18)ー(悲劇喜劇2020年9月) 金子さんと深い付合いになったのは、それでも何本か芝居を共にした後、小幡欣治の喜劇「にぎにぎ」なんて喜劇を宝塚劇場でやってヒットした後、芸術座で矢張り小…

山田五十鈴 どっちにしても怖い顔

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(17)ー(悲劇喜劇2020年7月) 「中根さん 今度の芝居はね、私、大震災に会ったと思ってあきらめることにしましたから。いえ私はひと通りのことはシゲさんと一緒にキチンとやりますけどね、ア…

嵐徳三郎 手間のかかった「徳さん」

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(16)ー(悲劇喜劇2020年5月号) 大阪の歌舞伎役者嵐徳三郎と知り合ったのは、徳三郎が蜷川幸雄宛に出した一種の毛筆の手紙からだった。 『近松心中物語』 帝劇公演中のことで、蜷川は私にその…

高橋惠子 関根恵子

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(15)ー(悲劇喜劇2020年3月号) 昔、関根恵子という名でデビューしたのが現在の高橋惠子さんである。結婚して高橋になった。しかしその名が変わったのには、単に結婚というだけ以上の意味があ…

杉村春子さん 芯の怖さ

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(14)ー(悲劇喜劇2020年1月号) 杉村春子さんに、東宝の芝居に出演してもらおうと思ったのは、山田五十鈴さんの「たぬき」が芸術座で空前の大当りをとり、私としても先行きこれ以上のヒットを…

塩島昭彦 天然の変人「チョーさん」

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(13)ー(悲劇喜劇2019年11月号) 塩島昭彦といっても古い文学座ファンを除いて知る人も少なくなってしまったが、奇人変人の多い文学座の役者の中でもチョーさんは変人として名高い人だった。…

近藤正臣 近ちゃん

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(12)ー(悲劇喜劇2019年9月号) “近ちゃん”とみんな呼んでいた。 楽屋裏での話だ。 演出助手も衣装さんもプロデューサーも大道具さんも、みんな近ちゃんが大好きだった。役者にありがちな理不…

松重豊 幻のオセロー

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(11)ー(悲劇喜劇2019年5月号) この間の暮れも押しつまった時期、松重主演の番組を、2、3本たて続けに観た。 『孤独のグルメ』という評判のテレビ番組の特集だった。松重も売れて食える様に…

若山富三郎 「先生」と云う男

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(10)ー(悲劇喜劇2019年3月号) 若山さんとは『ノートルダム・ド・パリ』のせむし男クァジモド、 『三文オペラ』の乞食の大将ビーチャムの2本を付合ってもらった。いずれも存在感に於て並居る…

巨匠吉井澄雄の失敗

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(8)ー(悲劇喜劇2019年1月号) 吉井さんは舞台照明の世界にかくれもない、うつ然たる大家・巨匠であって、その独り群を抜いてそびえ立っている。 私は蜷川幸雄と仕事を初めた最初の『ロミオと…

辻村寿三郎 ジュサリンという変人

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(8)ー(悲劇喜劇2018年11月号) 辻村寿三郎さんは天才的な人形作家であると同時に、すぐれた舞台衣裳デザイナーであり製作者である。そのデザイン感覚は単なる衣裳デザインの枠を越えて小道具…

タカラヅカの人々 パリ篇

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(7)ー(悲劇喜劇2018年9月号) 宝塚の人を書くとなったら、とても一人や二人に焦点を当でて書くことなど出来ない。このひとびとはみんないくつになっても、結婚してもしなくても、やめて引退…

井上ひさし「遅筆堂」へ一言

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(6)ー(悲劇喜劇2018年7月号) 井上ひさしには文句がある。 直木賞受賞の巨匠に対して畏れ多いかも知れないが、長年積りに積った文句だ。一度は言わしてもらいたい。「遅筆堂」などと本人は洒…

朝倉摂さん : 摂ちゃん 摂バア バアルフレンド  

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(5)ー(悲劇喜劇2018年5月号) 朝倉さんは著しく評価の上下する人だ。従ってその名も動詞変化の様に変化する。 「摂ちゃん」は摂ちゃんの評判がそんなに悪くない時だ。そんな時は持前の人柄が…

アラン・リックマン 大きな優しいセント・バーナード犬

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(4)ー(悲劇喜劇2018年3月号) アラン・リックマンといえば、いつも大きなセント・バーナード犬を連想する。そう、あのハリー・ポッターに出てくるスネイプ先生だ。映画の印象とは違って、私…

太地喜和子 可愛い女伝説

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(3)ー(悲劇喜劇2018年1月号) もう亡くなった人だが、太地喜和子は良い役者だった。私は秋元松代先生作の『近松心中物語』や『元禄港歌』などで、散々付き合って公私共によく知っている。役…

田中裕子ちゃんと一杯呑んだ話

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(2)ー(悲劇喜劇2017年11月号) 田中裕子さんのことはずっと裕子ちゃんと読んでいる。私は役者と狎れあうタイプのプロデューサーではないのだが、裕子ちゃんは最初から裕子ちゃんだった。あ…

怒りん坊な秋元松代先生

ー愛しき面倒な演劇人 名プロデューサーが明かす知られざる素顔(1)ー(悲劇喜劇2017年9月号) 題名に「先生」と付けたのは、没後16年を経た今でも全面的な畏敬の念と共に三分の恐怖が残るからだ。先生は怒りん坊だった。はっきり云えば単に怒りん坊という…

愛すべき面倒な人

ー追悼・平幹二朗ー(悲劇喜劇2017年3月号) 平幹二朗が名優であり、名優といえば平幹二朗と相場が決まったのは、そんなに昔のことではない。やはりそれは蜷川幸雄との出会いがあり、『三文オペラ』や『ハムレット』などを経て、『王女メディア』『近松心中…

いわゆる「世界のニナガワ」

ー追悼・蜷川幸雄ー(悲劇喜劇2016年9月号) 蜷川幸雄演出の芝居を海外で上演しようと考え始めたのは、1980年の『NINAGAWA・マクベス』の公演の頃だったと記憶する。蜷川を最初に大劇場の演劇に私が誘って、蜷川がそれに応じ結果自分の劇団を解散して、運命…